ドラマ「永遠の0」を見てみた。(その4)
ドラマの後半、宮部はいずれ特攻隊員となる学徒出陣の学生たちの教官となるのだが、学生たちから最初はなかなか「可」を付けてくれない教官としてけむたがられる。しかし、やがて宮部の真意を悟った学生たちから慕われるようになる。
(特攻を拒否し上官に逆らいまくりなのに、よく教官に任命されたものだという疑問はさておき)宮部は特攻を否定して家族のために命は惜しむべきという信念の持ち主なのだから、特攻隊員を養成するための教官の仕事は辛かっただろう。
学生の一人の大石は、特に宮部を尊敬し、飛行訓練中に敵機に襲われたとき、命がけで宮部を助けたりもする。
ここからは師弟愛がメインの話になり、宮部は命を助けてくれた大石にあっさり妻の心のこもった大切な外套(妻との結びつきを象徴する重要なアイテム)をあげてしまう。自分の一番大事にしている物をあげて教え子に感謝の意を表したということなんだろうが、妻の気持を考えたらそんなことするだろうか(ストーリー展開上の必然性はあったわけだが)。
結局、「可」をつけない教官だったせいか、宮部は鹿屋海軍航空隊に転属させられる。そこで、特攻隊に志願するわけだが、その前に「直掩」という特攻隊を護衛する任務につけられる。しかし、戦局はますます悪化し、熟練したパイロットは激減して、特攻する敵の空母まで特攻隊を無事送り届けることすら困難になり、特攻隊員も未熟な即席のパイロットであるため特攻自体の成功率も極めて低いものになってしまう。
宮部は、そういう現実を目の当たりにし、自分のかつての教え子も特攻に成功しないままむなしく死んでいくのを目の前で見て焦燥感を抱き、彼らを救えず自分だけが逃げて生き残っていることに罪悪感すら覚えて、別人のように気力を失ってしまう。
・・・というのが、後半のドラマのあらすじ(ちょっと私の主観が入ったまとめですが)。
しかし、味方もときに見捨て逃走する敵を容赦なく撃退するという冷徹なまでの合理主義者であり、なんとしても妻子のために生きて帰ると誓っていた個人主義者の宮部が、このように突然焦燥感や罪悪感に苛まれる普通の人間に豹変する、というところに私は不自然さを感じてしまう。
いくら部下や教え子に優しい人間だったとしても、修羅場をかいくぐってきた歴戦の零戦パイロットであるのだし、生と死のジレンマは戦闘機乗りなら常に抱えていたはず。
こういっては何だが、演じている向井さんもこの宮部の豹変ぶりを理解していないのではないかと思ってしまった。宮部がおかしくなってしまってからの演技は、ただただ力が抜けてしまったという雰囲気だけで、伝わってくるものを感じなかった。
突然変貌されても、そこに至るまでの経緯があまり描かれていないので、見る方としてはとまどってしまう。原作はどう説明しているのか知らないが。
少なくともドラマを見ただけの私にはとても不可解な人物像に思える。
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そして、突然宮部は特攻に志願するわけだが、最期までその理由は何も説明されないままに終わる。
エエーッ、これは謎解きドラマではなかったのか!?。これじゃ、長編推理小説を最期まで読ませておいて、犯人は明らかにしたので犯行の動機は読者が勝手に考えておいてよ、というのと同じではないか。
ここまで引っ張っておいてそりゃないわ、と思った。
上官に逆らいまくってまで特攻はやらないという信念を貫き、戦友や部下や教え子に、どんなに苦しくても生きる努力をしろ、家族のもとに生きて帰れ、命を粗末にするな、特攻に指名されたら不時着せよ、とさんざん言っていた男が、なんで自分は生きることをあきらめたのか。
今まで長い時間をかけて語られてきた宮部の妻子への思いや生きることへの執念はどうなってしまったのか?命がけで上司に逆らってまで断固特攻を拒否した男がこんなにあっさり特攻を受け入れてしまっていいの?
・・・私は、理性的で合理的思考の持ち主が特攻を受け入れた理由に興味を惹かれて見てきたのに。
映画監督の井筒和幸氏が映画を見て「見てきたことを永遠に記憶から消したい」「人物像としてありえない」というようなことを言っていたとネット上で読んだが、それはこういうことだったのか。
それに「死を覚悟した眼ではなかった」と直前の宮部の様子を見ていた(宮部と因縁のある零戦パイロット)景浦の話はどうなっちゃったのだろう。てっきり、不時着するつもりなのかと思った。
せめてヒントとなる妻への遺書はないのか。普通はこういう場合遺書を書くと思うのだが、遺書も書けないほどに憔悴していたということか。
(つづく)
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