法曹養成制度検討会議・中間取りまとめ案へのパブコメ(その2)
第2 今後の法曹人口の在り方について
1 第1段に対してー司法審意見書から12年が経過しているにもかかわらず、なぜ法曹に対する需要が増えていないのか、裁判官、検察官の採用数はなぜ増えないのか、という当然の疑問を無視している。
(1) 司法審意見書から12年が経過し、この間にも「社会がより多様化、複雑化」したはずなのに、法曹に対する需要は増えてはいません。
検討結果では、「過払金返還請求訴訟事件を除く民事訴訟事件数や法律相談件数はさほど増えておらず」(現在では過払金返還請求訴訟事件も激減しており、訴訟事件全体が減少傾向にあります)、「法曹の法廷以外の新たな分野への進出も限定的」であり、「司法修習終了者の終了直後の弁護士未登録者数が増加する傾向にあり」、「法律事務所への就職が困難な状況が生じていることがうかがわれる」という事実認定をしておりながら、どうして「法曹に対する需要は今後も増加していくことが予想される」「全体としての法曹人口を引き続き増加させる必要があることに変わりはない。」という楽観的な結果が導き出せるのか、理解に苦しみます。
(2) なお、「法曹人口」の中には、弁護士だけではなく裁判官、検察官も含まれていますが、裁判官や検察官の採用数は増加するどころか、ここ数年は減少傾向に転じています。
「法曹に対する需要」というとき裁判官と検察官の需要も含まれていることは明らかですが、裁判官や検察官の採用数は国家の施策として決められています。そして、法曹人口を増加させるというのも司法審意見書に基づく国家の施策だったはずです。にもかかわらず、どうして国は、裁判官と検察官の採用数を増加させないのでしょうか。裁判官と検察官を増加させるほどの需要がないと判断しているからではありませんか。
社会がより多様化、複雑化するので法曹に対する需要が増加する、だから法曹を増やす必要があるというのであれば、社会の多様化、複雑化により弁護士だけではなく裁判官と検察官の仕事も増えるはずなので裁判官と検察官も増やすべきでしょう。
取りまとめ案には、国がなぜ裁判官と検察官を増やそうとしないのかという視点が落ちています。
2 第2段に対してー現時点においては、司法試験の年間合格者数の数値目標は設けないのが相当であるということであるが、いつになったら、あるいはどういう事態が発生すれば数値目標を設けるのが相当となるのか。
(1) 司法審意見書には「司法試験の合格者数を年間3,000人程度とすることを目指す。」という数値目標が定められていました。そもそも、この「年間3,000人」という数値に合理的根拠があるのか大いに疑問ではありますが、少なくとも法曹の需要を考慮して国が決めた数値目標だったはずです。
検討結果には、「なお、もとより、実際の司法試験合格者は、司法試験委員会において、法曹となろうとする者に必要な学識・能力を有しているかどうかという観点から、適正に判定されるものである。」との記載がありますが、もし司法試験委員会が純粋に「学識・能力」のみで司法試験の合否を決定しているのであれば、合格者の数値目標などを決めたところで、受験生の数、学識・能力によって毎年の合格者数も大幅に変動するはずですから、数値目標を決めたところでその実現はまず困難ということになります。
結局、司法試験合格者数は、過去も現在も司法予算と法曹の需要を考慮して政策的に決められているということは、司法審以来の暗黙の了解であるというべきでしょう。
(2) また、いつの時代も、法曹志望者におおよその司法試験合格率を知らしめ自身の将来設計の資料とさせるために、国によって司法試験合格者数の目安が公表されてきました。
国が「司法試験合格者数の目安」を決め、それを公表することには、このような意義があったはずです。
しかし、取りまとめ案は、このような「司法試験合格者数の目安」の意義を無視し、この有識者会議に求められていた命題に対する答えを出すことを放棄してしまっているので、無責任と非難されても仕方がないでしょう。
(3) もっとも、第1段で、「今後も社会がより多様化、複雑化するので法曹に対する需要は増加する、だから法曹人口を引き続き増やす必要がある」と述べているので、現在の司法試験合格者数を維持すべきであり、「減らす」という選択肢は全く考慮の範疇にはないことだけはよく分かります。
しかし、現在の年間2,000人程度の司法試験合格者数を維持していけば、司法審意見書が目指すべきとしているわが国の法曹人口5万人に近い将来達し、その後もどんどん法曹人口は増え続けることになります。
司法審意見書から12年が経過しても法曹需要が増えなかったという事実、及び現在の司法試験合格者数2,000人でも既に弁護士人口は飽和状態に達しており、むしろ弁護士過剰により後述する多くの弊害が生じていて、近い将来国民に多大な被害を与えかねない状況にあるという現実を直視すべきであり、司法試験合格者数を「減らす」という選択肢も十分検討されるべきであったにもかかわらず、取りまとめ案にはこの選択肢が全く検討されていません。これもまた、無責任というべきです。
3 第3段に対してー現時点の法曹人口の在り方について結論を出さず、将来「その都度検討を行う」というのは、問題の先送りにすぎない。
今後の法曹人口の在り方について協議・検討するのが、法曹養成制度検討会議の目的の一つであったはずですが、「法曹有資格者の活動領域の拡大状況、法曹に対する需要、司法アクセスの進展状況、法曹養成制度の整備状況等を勘案しながら、その都度検討を行う必要がある。」とするのみで、現在の「法曹有資格者の活動領域の拡大状況、法曹に対する需要」等を勘案した上での今後の法曹人口の在り方については全く検討結果を出さないというのはいかがなものか。
国民の血税を財源として長期間にわたり調査・検討・協議がなされてきたにもかかわらず、これらが無駄であったとしか思えず、法曹志望者や国民に対して不誠実かつ無責任であると思料致します。
4 弁護士過剰による弊害について
(1) 私は25年近く弁護士をしてきましたが、ここ数年、弁護士過剰による様々な弊害が表面化してきたと実感します。弁護士ですので、守秘義務があり、具体的事案を説明することはできませんが、直接経験したこと、他の弁護士から聴取したこと等を抽象化してここに掲げさせて頂きます。
① 事件の内容からして信じられないほど高額な報酬を依頼者に請求して受領していた事案
② 依頼者にも落ち度があったにせよ、事件の委任契約を途中で解約し、預かり金の精算書や先払いの報酬の精算書も依頼者に交付せず、通常の相場よりもはるかに高い報酬金を受け取ったままにしていた事案
③ 過去の判例や一般常識からして、とても成り立たない請求について、簡単に委任を受け報酬を受け取り、内容証明を送付したものの、当然相手方から支払いを拒否され、その後何もせずに放置している事案
④ 依頼者に精神障害があることは少し注意を払えば明らかであるにもかかわらず、依頼者の言い分をそのまま信じて(あるいは信じたふりをして)法外な請求をし、相手方の怒りをかった事案
⑤ 依頼者に対して預り金を長期間にわたって返還せず、依頼者が請求すると「経営が苦しいので、返還はもう少し待って欲しい」と言い訳をしていた事案
⑥ 自己破産申立事件(破産管財人事件)の申し立ての委任を受け、通常の相場をはるかに上回る報酬を受け取り、破産管財人に否認された事案
このような事案の中には懲戒事件に発展するものもありますが、多くは事件処理の方法等について同業者にはその違法性・不当性が明らかでも依頼者らには分からずじまいで終わってしまう事案もたくさんあると推測されます。
これらは弁護士の職業倫理の問題ですが、過当競争にさらされて、力量のある弁護士よりもセールスや宣伝のうまい弁護士の方が評価されて勝ち残れるとなれば、弁護士としてのアイデンティティーを見失い、仕事に対するモチベーションが低下し、金銭的利得の方を重視して(違法とまではいかなくても)不適切、不誠実な事件処理に走る弁護士がますます増加することが予想されます。そして、国民にはそのような弁護士を見極めることは事実上不可能です。
(2) また、事件数が減少しているのに弁護士数が激増しているため、弁護士1人当たり、特に若い弁護士1人当たりの経験できる法律相談件数や受任事件数が減少し、弁護士が経験を積む機会が極端に減ってしまっています。これがオン・ザ・ジョブトレーニング(OJT)を受ける機会の減少とともに、弁護士の質の低下をもたらしています。
後述する司法修習の短縮化やOJTの機会を得られない若手弁護士の増加、そして弁護士過剰(中堅以上の弁護士の数に比し若手弁護士の数が極端に多い)によって指導に当たる弁護士にも余裕がなくなってきていること等から、この弁護士の質の低下の状況は今後もますます悪化していくと思われます。
このような弊害は、いくら法曹倫理教育で精神論を語ったところで、避けられるものではありません。
弁護士に過剰な競争を求めれば、弁護士も宣伝やセールスに時間を費やさねばならず、仕事、自身の研修、後輩の指導等に多くの時間を充てることができなくなります。そして、弁護士は互いに競争相手にすぎなくなり、先輩弁護士が後輩弁護士の実務修習やOJTに協力するという良き伝統も次第になくなっていくでしょう。現在はまだあからさまではありませんが、既にその途上にあると実感します。
(3) 更に、私がもう一つ大きな弊害と考えるのは、裁判官や検察官が中途退官して弁護士になるという途が事実上塞がれてしまったということです。 弁護士過剰により、裁判官や検察官を退職してから弁護士として独立開業することも、他の弁護士の法律事務所に入所することも、難しい状況となりました。このことにより、裁判官や検察官が自身の良心に従って思い切った判決を書いたり処分を選択することを困難にし、裁判所や検察庁がますます官僚化して独善傾向に走りやすくなるのではないかと危惧致します。
(4) このようなことになれば、国民に大きな被害を与えることになります。
需要がないのに弁護士を増やすことには大きな危険が伴うということは、実務経験のある弁護士であれば誰もが実感するところでありますが、これを自分たちの既得権擁護のために誇張しているにすぎないと捉えるのは狭量にすぎます。
弁護士を利用する国民の視点に立っても、需要のないところに弁護士を激増させることの危険から眼を反らすべきではないと考えます。
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貸与制になってから、多い人は1000万円も借金を抱えて弁護士になると聞いていますが、自分の生活も大変な人が困っている市民のために働く余裕があるのか不安に思います。市民の味方になる弁護士を増やすためにも、給与制に戻すべきです。
投稿: | 2013年5月14日 (火) 00時02分