朝日新聞の記事「法曹養成 見直し始動」
朝日新聞がこんな記事を掲載した。
(朝日新聞デジタル)
有料などで、見られない方が多いだろうが。
新聞紙の方の記事は「法曹養成 見直し始動 国に有識者検討会議」という表題となっており、その下に「弁護士就職難・・・進む法科大学院離れ」という表題の「高橋淳、田村剛」と記者名を付したコラムが掲載されている。
そのコラムの内容がちょっと意外だった。
上半分の「法曹養成 見直し始動 国に有識者検討会議」という記事は、法科大学院の志願者減を受け、撤退する法科大学院も出てきていること、弁護士の就職難などを報じ、法曹養成制度を抜本的に見直すための有識者会議が政府に設けられることが決まったことを報じるもので、特に目新しいものはない。
しかし、下のコラムには、「えっ、朝日新聞もこんな記事掲載するの?!」とちょっと驚いた。
先日の法科大学院制度の問題点を取り上げた東京新聞の記事にも匹敵する内容だ。
「あと1回、受験させてもらいたかった・・・」。2009年に東京都内の法科大学院を修了した男性(30)は3度の受験に失敗。「5年以内に3回まで」という新司法試験の受験資格を失った。昨秋、法曹への道をあきらめ、人材紹介会社に就職。大学院時代に借りた奨学金数百万円を返済しなくてはならない。環境や消費者問題に取り組む弁護士を目指し、法科大学院に進学した。
「不合格は自分の責任。でも、今、法科大学院への進学はリスクが高い」
先日の司法記者クラブの懇談会でも、記者の中にはこのような「三振者」の話を聴きたいという人がいた。具体的なインタビューがないと、記事にはなかなかできないそうだ。
出席した弁護士の中には法科大学院の教授もいたが、「三振した人は大変ショックを受けている状況なので、そういうインタビューは匿名でも受けたくないという人が多い。」と紹介をためらっていた。
これはおそらく東京の朝日新聞の記者だろうが、よくこういうインタビューを取れたものだと思った。
もっとも、この男性は「環境や消費者問題に取り組む弁護士を目指し」と言っておられるが、弁護士の眼からみると、「環境や消費者問題」に取り組んで弁護士として自立できるだけの収入を得るのはとても難しいと思う。ましてや借金の返済は困難だろう。環境問題や消費者問題には、弁護士は手弁当で取り組んでいることが多いからだ。こういう実態はなかなか学生には分からないだろう(法科大学院の教授がどう教えているかしらないが)。
そして、こういうインタビューも紹介されている。
都内の大学で法学部に通う4年の男子大学生(23)も、「改革の失敗で将来の芽を摘まれた」と悔しがる。社会の矛盾を追及しようと弁護士を志望していたが、悩んだ末に法科大学院への進学をあきらめた。弁護士の就職難が問題になっているのに、借金して大学院に進むのは不安が大きい。「将来を真剣に考える学生ほど、泣く泣く進学をあきらめている」
こういう大学生はたくさんいるだろう。
最近では、私もこういう方のブログ記事を紹介した。この方の冷静な分析に感心された方も多かったようだ。
更に、このコラムは、法科大学院教授の弁を紹介する。
明治大学法科大学院で教える鈴木修一弁護士は「不合格者は敗者というレッテルを貼られ、法科大学院を出てもそれに見合う活躍の場がない。制度的な欠陥を自己責任として放置していいはずがない」と指摘する。
法科大学院制度に「制度的な欠陥」があることは間違いがないだろうが、なぜ法科大学院を卒業しても司法試験に不合格となると「敗者というレッテル」を貼られることになるのかこそが問題だろう。
法科大学院の教育に対する社会の信用が高ければ、たとえ司法試験に合格していなくても社会で活躍の場が見つかるはずではないだろうか。
そして、朝日新聞のこのコラムは、「法曹人口問題全国会議」有志による法科大学院制度についてのアンケート結果も報告してくれている。
法曹界には法科大学院の廃止を求める声も出始めた。弁護士有志でつくる「法曹人口問題全国会議」のメンバーが今年4~5月、全国の弁護士3215人から回収したアンケートでは、61%が法科大学院の廃止に「賛成」と回答した。
このコラムは、最後を、このような法務省幹部の談で結んでいる。
検討会議での議論について、法務省幹部は「大学院を閉鎖するわけにもいかない。改革ムードの熱狂から生まれたひずみをいかに修正するか。難しい議論になる」と話す。
「改革ムードの熱狂から生まれたひずみ」というが、熱狂していたのはごく一部の学者や弁護士らにすぎず、別段国民は熱狂などしていなかっただろう。
「ひずみ」というが、「ひずみ」どころではない。「土台」自体の欠陥のために、今にも崩れ落ちそうだというのが事実に近いだろう。
「大学院を閉鎖するわけにもいかない。」というが、司法試験の受験資格から「法科大学院卒業」をはずせばいいだけのことではないか。それで、学生が来なくなった大学院をどうするかは、経営母体の大学が考えればいいことではないか(法科大学院制度を推進した学者の方々の好きな市場原理を尊重するとはそういうことではないか)。
「難しい議論になる」というが、一方方向しか見ていない有識者をズラリと並べるのであれば、さして難しい議論にはならないだろう。法科大学院の統廃合、定員の削減を推進する、そのために補助金を減らす、という結論ありきの議論になりそうだ。
ともあれ、朝日新聞がこういう記事を掲載するとは、隔世の感がある。
「法科大学院制度の弊害」が知れ渡ってきて、朝日新聞もさすがに目を背けることができなくなってきたということだろうか。
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コメント
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法務省の考えがよくわからないんですよね。
法務省にすれば、法曹養成のキャスティング・ボートを、ズブの素人以下である文科省に取られたようなものですから、ロー制度などつぶれてほしいと思っていると思ったら、さにあらずです。
法務省にとって、ローを存続させる動機はどこにあるのでしょうね。
ともあれ、文科省と日弁連の考え方では、ローに行こうという人はまったく増えず、法曹になろうという人も増えることはないと思いますが、アサヒ新聞が法曹養成制度改革にやや批判めいた記事を載せるのは珍しいこともあるものだな、と思いました。
投稿: 弁護士HARRIER | 2012年8月 2日 (木) 17時55分
旧試験時代に法曹養成のキャスティングボードを握っていたのは法務省ではなく最高裁じゃないですか? 法務省は合格者数の決定権限を握っていましたが、それは今でも同じですからね。
法務省にしてみたら、そこそこ能力のある体育会系の若い人材が欲しいわけですから、25~6歳の合格者が多くなる新試験制度の方が都合が良いんじゃないでしょうか?
投稿: 大阪の弁護士 | 2012年8月 2日 (木) 18時44分
>25~6歳の合格者が多くなる新試験制度の方が都合が良いんじゃないでしょうか?
最年少で、ですよね。。
現実は実質30前後以降のの合格者多数でベテと呼ばれる人種ばっかじゃないですか、昔の。しかも、バカばっかり。。
投稿: | 2012年12月28日 (金) 02時38分