女性弁護士のイソ弁事情と育児会費減免制度
男女共同参画の理念に基づいた育児期間(男女問わず)の弁護士会会費減免制度の議論の中で、最近の女性のイソ弁の勤務状態が少し分かってきた。
アンケートに、出産後に「勤務状態が変わった」「給与が減額された」と答えた女性イソ弁は約67%だったそうだ(「勤務状態が変わった」とはどういうふうに変わったのかはよく分からないが)。
勤務状態等に変化がなかったと答えた人も、ボス弁に気遣いしながら働いていることが分かるそうだ。
確かに、突然出産、育児のために休暇を取られると、依頼者もボス弁も困るだろう。
複数のイソ弁がいる事務所でも、通常の事件では1人の弁護士が担当することが普通である(訴状にずらりと弁護士の名前が記載されていても、実際には担当は1人で、他の弁護士は名前だけということが多い)。そんなに大勢の弁護士が担当していたら、採算が取れないという事件が殆どだからだ。
そこで、担当弁護士が急に休むと、ピンチヒッターとなった弁護士も事情が分からず困ることが多いのだ。中には、他のイソ弁が忙しくて、ボス弁自身が担当せざるをえないこともある。
(まあ、こういうことは他の職業でもあることで、たとえば女優さんなどが妊娠して舞台に出れなくなると、スポンサーや他の共演者、スタッフに迷惑をかけるのと同じである。中には違約金が発生するような契約をしている業種もあるだろう。)
それ位、弁護士の仕事はシビアだということだ。なにせ、個人の依頼人にとっては一生に一度、企業にとっても死活問題、ということもあるからだ。
正直なところ、女性弁護士を雇用するボス弁にはかなりの経済的な余裕が必要となると思う。妊娠中の女性弁護士の担当事件はあらかじめ共同受任にしておくなどの配慮が必要であり、そういうことは人員に余裕がないとできないからだ。
こういう余裕のある経営者弁護士が減ってきたことが、女性修習生の就職難、女性弁護士の待遇悪化の一番の原因だろう。
もちろん女性弁護士もそういうことはよく分かっていて、かつては、たとえば、出産は独立してから(夫の男性弁護士経営の事務所に移ることが多い)するとか、できるだけ休業期間を減らすとか(出産直前まで仕事をしている人も多かった)、計画出産し休業前に前倒しして仕事をしておくとか、経営者弁護士や依頼者に迷惑をかけないよう並々ならぬ努力をしている人が多かったように思う。
しかし、現在は、若手弁護士が開業独立していくことが難しくなり、女性も独立するよりも勤務弁護士として働き続けることを選択する人が多くなっている。女性弁護士の意識も「自営業者」というよりも「サラリーマン」的な感覚の人も増えているようだ。そこで、事務所(ボス弁、兄弁など)との軋轢が生じることが多くなっているのだろう。
今も昔も、女性弁護士の採用を嫌がるボス弁は多い。特に、弁護士過剰になってからは、「何も女性弁護士を採用しなくても、男性弁護士をいくらでも選択できるのだから」と、「女性」というだけで採用を拒否するボス弁もたくさんいる。
ボス弁も経営が苦しくなってきているので、リスクのある女性弁護士は採用したくはないというのが本音だろう。私も相代理人が突然「妊娠、出産」で仕事ができなくなったら、本当に困るので、この本音はよく分かる。
しかも、弁護士業界には、今までの記事に書いてきたように「性別による役割分担」の観念にとらわれている古いタイプの男性も多いのだ。
(こんな弁護士業界が、「男女雇用機会均等」「男女共同参画」なんて理念を振りかざしていることは、笑止千万である。)
しかし、先輩の女性弁護士らの努力によって徐々に改善されてきたところに、この司法試験合格者数の激増があり、女性弁護士の採用、待遇面が著しく低下してしまった。需要を無視した増員によるひずみが、こういうところにも現れているのである。
このままでは、弁護士をめざす優秀な女性(弁護士2世などは除く)も減っていくだろう。どこかの記事に、弁護士よりも裁判官、検察官を志望する女性修習生が増えたとあったが、当然のことだ。
司法試験合格者増は、多様な人材が弁護士になることを目的としていたはずだが、少なくとも性別における多様性では失敗だったわけだ。
女性弁護士の待遇改善のためには、弁護士の人口を適正規模にすることが一番の早道だと思う。そうなれば、経営弁護士にも余裕が生まれ、真面目で働き者の多い女性弁護士は、多少のハンディがあっても男性弁護士よりも重宝されると思う。
政府は司法試験合格者数の目標を3,000人から2,000人に下方修正するそうだが、今ですらひどい女性弁護士の就職状況は、2,000人が続けばどれだけ悪化するかしれない。
本当の問題は、この「弁護士過剰」と「男性弁護士の意識」に原因があるのに、「育児会費減免」はそこから目をそらさせ、一応「対策取ったよ」とお茶を濁しているもの(※)としか思えない。長い育児期間中の8ケ月程度会費を減免したところで、問題の解決にはならないだろう。
(※ 議論をみていると、育児をしないできた男性弁護士たちの罪滅ぼしのように使われているようにも感じられておかしい。「会費を免除してやるからいいだろう」というのではなく、男女共同参画の理念を本気で実現したいのなら、まず「自分が行動で示せ=家事・育児をやれ」と言いたい。会費減免という金で夫弁護士を釣ってイクメン化しようというのも嫌らしい。そんなことをしないと男性弁護士は育児をやらんと思っているのか。)
むしろ、こんな減免がまかりとおれば、会員間の公平は犠牲になり、弁護士会に対する不信感はますます募るだろう(もっとも、私の場合、弁護士会に対する不信感はもう既にいくところまでいっている気がするが)。
過疎地対策や刑事被疑者弁護のための特別会費といい、弁護士会は真の対策にはならない「いいかっこしい」のためだけの社会政策的増税をするのが大好きだ。
もし、そういうことをされたいのなら、会員の実質的平等をはかるために、「累進課税方式」を採用し経済的平等に配慮した会費徴求にしてからにして頂きたい。
それが無理なら、せめて会費徴求においては形式的平等を貫いて、社会政策の方は実質的平等を配慮している国に任せるべきだろう。
なにしろ、弁護士であり続けるためには、どんなに執行部と主義主張が違おうと、どんなに仕事がなく収入が低かろうと、病気や介護のために週35時間以下しか働けず収入が低かろうと、高額(2万から10万円程度)な会費(事実上の税金)を毎月払い続けなければならないのだから。
私は、この問題にはあまり関心がなかったのだが、考えていくうちにだんだん腹が立ってきた。
8月末の常議員会で審議されるそうだが、愛知県弁護士会の常議員の先生方の良識に期待します。
ホントに、こんな不公平な規則が成立してしまうようなら、私は弁護士会は任意加入団体になった方がいいと思う。
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会費減免という主題とは違いますけど、法曹人口については、どうしても、弁護士過剰とは思えないんですよね。
だって、弁護士ってバラバラじゃないですか。
バラバラに事務所構えて、経営悪化とか言われても、生き残る努力が足りないだけじゃないの、としか思えないんですよね。
たとえば、女性弁護士の育児の問題だって、組織化した弁護士法人を作れば解決するんじゃないですか?
人数がいれば、一時的に戦力外になる人を抱える余力が生まれるし、事件数も増やせるから、個々の弁護士の収入を常識的な範囲に抑えれば、事務所全体としては経済的な余力も生まれやすいでしょう?
それに、家事部門、交通事故部門、医療過誤部門、建築紛争部門、刑事事件部門という風に、部門分けすれば、個々の弁護士は特定の仕事だけ集中してするから、時間的・精神的負担も軽減できる。
人数がいれば、それだけ、事務所内でノウハウもたまりやすい。
依頼者としても、たとえば、離婚なら、離婚部門の弁護士に担当してもらえば、離婚ばっかりやってる弁護士に仕事してもらえて安心じゃないですか。
まさに良いことずくめでしょう?
こういう発想が生まれないやむにやまれぬ弁護士界特有の事情でもあるんですか?
私にはそうは思えないです。
いままで、弁護士の数が少なかったから、一国一城の主になった方が経済的に恵まれていたから組織化という方向に向かいづらかっただけでは?
投稿: 月電 | 2012年8月11日 (土) 22時55分
月電さんへ
>それに、家事部門、交通事故部門、医療過誤部門、建築紛争部門、刑事事件部門という風に、部門分けすれば、個々の弁護士は特定の仕事だけ集中してするから、時間的・精神的負担も軽減できる。
既に、弁護士の専門化はかなり進んでいると思います。しかし、いくら専門化、部門化したところで、合理化には限度があります。もともと仕事の内容が、職人仕事のようなものですから。
最も合理化できたのは、債務整理部門だったでしょうが、それをやったテレビで大々的に宣伝していた某大事務所ですら、今は「弁護士業に未来はない」として「回転寿司」経営に転向しようとしている位ですから。
ちなみに、私の取扱分野の一つである医療過誤部門では採算が合わないことが多いです。他の分野の仕事をして、なんとか収益を補っているという状況です。
多くの弁護士が、このときはこちらの分野の仕事で黒を出し、他の分野の赤を補う、あるときはその逆というように、なんとかやりくりしている状況ですので、あなたのいうようなデパート方式のようにはいかないのです。
もしデパート方式で合理性を追求するなら(仕事の内容からして、それにも限度があるでしょうが)、赤字ばかりの部門は直ぐに切られるでしょうね。赤字部門になるような分野を志望する弁護士はいなくなるでしょうから、その分野の弁護士の層は薄くなり、レベルは下がっていくでしょう。
また、そういうデパートができて、大々的に宣伝すれば、仕事の総数自体が少ないため、寡占状態となり、弁護士費用は逆に高くなるでしょう。
そして、デパート方式にすると、デパートに就職できた弁護士のみが生き残り、デパート同士が宣伝合戦をするということになるでしょうね。その宣伝の費用は、弁護士費用に上乗せされるというわけです(債務整理部門では、そういうことがなされたわけですが、それで仕事のレベルが上がったかどうかは疑問です。知っていることはいろいろありますが、ここには書けないです)。
そもそも、デパート方式のビジネスモデルはインターネットの登場などで、崩壊しつつあるのではないですかねえ。
デパート式にせよ、個人職人式にせよ、弁護士業界全体の仕事の総数は増えるわけではないですから、(その養成に多額の国費がつぎ込まれている)弁護士が余り続けることには違いがありません。
投稿: M.T.(管理人) | 2012年8月12日 (日) 00時53分
>もしデパート方式で合理性を追求するなら(仕事の内容からして、それにも限度があるでしょうが)、赤字ばかりの部門は直ぐに切られるでしょうね。赤字部門になるような分野を志望する弁護士はいなくなるでしょうから、その分野の弁護士の層は薄くなり、レベルは下がっていくでしょう。
えぇっ、なぜですか???そんなはずないでしょう???
だって、組織であろうが、個人であろうが、不採算部門切り捨ては、経営的には合理的なはずでしょう?
でも、少なくとも管理人様は不採算部門の仕事もされているわけですよね。
組織になると、それができなくなるというものではないのでは?
それに、組織化して事件数を増やせば、黒字化も狙えるのではないですか?
そもそも、不採算な仕事であればあるほど、個人レベルでは維持できなくて、組織なら維持しやすいのは、経営の常識でしょう?
>また、そういうデパートができて、大々的に宣伝すれば、仕事の総数自体が少ないため、寡占状態となり、弁護士費用は逆に高くなるでしょう。
そうですかねぇ。
仕事の総数が少なくて、寡占になりやすいからと言って、価格競争が起きないというのは違うのでは?
たとえば、たった2事務所しかないと仮定しても、どっちが少ないパイを独占するかという形の激しい競争が起きるだろうから、適正価格の形成が可能ではないですか。
>そして、デパート方式にすると、デパートに就職できた弁護士のみが生き残り、デパート同士が宣伝合戦をするということになるでしょうね。その宣伝の費用は、弁護士費用に上乗せされるというわけです
別に構わないのでは?
そもそも、特定の得意先のみを相手にする業種と違って、弁護士業は広く一般市民から集客する仕事なのだから、宣伝を打つのは当たり前だと思いますよ。
他業界からすれば、宣伝を打たないなんて考えられない、ありえないです。
だとすれば、宣伝広告費は必要経費なのだから、価格に転嫁されるのは当然でしょう?
それに、管理人様だって、不採算な仕事を黒字の仕事で埋めておられるのでしょ。
価格面で依頼者に対して誠実であろうとするなら、不採算部門なんて切り捨てて黒字部門に集中された方が、誠実なのでは?
>そもそも、デパート方式のビジネスモデルはインターネットの登場などで、崩壊しつつあるのではないですかねえ。
組織やブランドではなく、個人の仕事そのものを直接評価できるようになったからですね。
でも、利益の最大化、分業化など、組織のメリットが崩壊したわけではないですよ。
投稿: 月電 | 2012年8月12日 (日) 05時31分
月電様へ
弁護士業務の具体的な内容について、月電さんはあまりご存じないようです。
一つ一つ説明させて頂く時間はありませんので、かつて私が書いた記事をお読み頂ければと思います。
たとえば、この記事。
「バンパイア効果の恐怖」
http://t-m-lawyer.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-61cf.html
弁護士業務がデパート方式になじむのか、市場原理主義が適用されれば仕事のレベルや価格がどうなるのか、まあ、どうなるか見物じゃないですか。
おそらく、テレビで大宣伝されている事務所がやられることでしょう(いや、既にやられているようですが)。その方がいいと思っておられる方々は、そちらに行けばいいでしょう。
その結果には責任は持てませんが。
いずれにせよ、いくら組織化されようが、女性弁護士はとびぬけた能力があったり、何らかの採用メリット(たとえば菊間氏のように)がない限り、採用や待遇面で有利にはならないでしょうね。
いくら多人数の弁護士がいても、事件処理は1人でやらないと、とても採算が合わない事件が殆どですから。
投稿: M.T.(管理人) | 2012年8月12日 (日) 08時09分
月電様へ
>価格面で依頼者に対して誠実であろうとするなら、不採算部門なんて切り捨てて黒字部門に集中された方が、誠実なのでは?
「依頼者」というのは、「黒字部門の依頼者」に限ってのことですね。
・・・私も、もっと早くそうすればよかったかなあと思っています。
債務整理に特化したり、企業法務に特化している事務所はまさにそうしているわけですから。
あるいは、多額の報酬が見込まれる事件のみを受けて、少額の報酬、あるいは赤字が見込まれるような事件はあっさり断ればいいのですから(これは、かつて債務整理特化事務所が、過払案件のみ受け、任意整理を放置していたことが問題となり、日弁連が債務整理の指針をつくって戒めたわけですが、これも月電さんの論理でいくと、何ら問題はなかったわけですね)。
もっとも、もしそういうことができれば、私はそもそも弁護士にはなっていなかったと思います。
投稿: M.T.(管理人) | 2012年8月12日 (日) 08時25分