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2011年9月17日 (土)

「砂の器」の話(その1)

 私は、松本清張氏の社会派推理小説というジャンルの作品はあまり好きではなく、まともに読んだのは、「点と線」と「霧の旗」くらい。

 松本清張氏の推理小説は、トリックや推理の過程よりもその時代の社会背景や犯人たちの情念、そして刑事の執念を描いたものが多く、どうもウェットすぎて重すぎるので、私にはあまり向いていない。

 唯一、時刻表を効果的に使った視点が面白い「点と線」は好きだが。

 むしろ歴史小説やノンフィクション小説のようなものの方が好きで、「昭和史発掘」は実家に文庫本が揃っていたのでほぼ全部読んでいる。飛鳥時代の石像遺跡から拝火教の伝来を推理する古代史ミステリー小説「火の路」も面白かった。

 だから、「砂の器」も原作は読んでいない。「ゼロの焦点」もどうも読む気がしない。

 ただ、松本清張氏の小説は、「これでもか」という位に何度も何度も映像化されているので、いくつかは見ている。それも、映像化されると、小説以上におどろおどろしく人間の情念や情欲のすさまじさに焦点があてられるような。

 これは日本人の特性なのかと思う。

                 

 「砂の器」は映画(野村芳太郎監督作品)を見た。テレビ放映でだが。

 映画の「砂の器」は、原作とはかなり違っているらしい。

 この映画は、最後の父と子の放浪シーンと父が成長した息子の写真を見せられて「そんな人知らない」と絶句するシーンが有名で、日本人でこのシーンを見て泣けない人は少ないのではないか。

 松本清張氏の社会派推理小説があまり好きではない私も、この映画のシーンでは泣けた。

 父と子があてのない遍路の旅をする日本の風景の映像もすばらしい。

 このシーンで流れる交響曲「宿命」もすばらしい。

 父親の加藤嘉さんと息子役の男の子の(演技というよりも)存在感がすごい。

 人のよい巡査役の若き日の緒方拳さんも印象に残る。

 (この映画は配役もよかった。特にこの3人の配役がなければ名作にはならなかっただろう。)

  しかし、このシーンで私が泣けた一番の理由は、父親が「ハンセン病」という設定があったからだと思う。

                     (つづく) 

 

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