あるロースクール教員の嘆き
あるロースクールの実務家教員(弁護士)の方が、現在のロースクール制の問題点についてご自身の経験から次のように嘆いておられた。
ご本人の承諾を得たので、掲載させて頂きます。
法科大学院を修了しないと原則として司法試験を受験させないという制度設計に根本的な問題があると思っています。
これにもう一つ大きな問題点としてつけ加えなければならないのは、アメリカのロースクール制度を機械的に模倣したという点です。アメリカには大学の法学部がありませんから、全員が未修生としてロースクールに入学します。ところが、法学部がある日本に、これを機械的に導入したため、日本でも未修入学を原則とするということになってしまいました。
その結果、多くの法科大学院生は法律学に対する適性を判定されることなく法科大学院に入学させられることになってしまいました。
適性試験や小論文の成績がよくても、法律学になかなかなじむことができず、苦労している学生の姿を見ると、本当に涙が出てきます。
前の制度であれば、何年か司法試験を受験して合格できなければ、自分の意思であきらめることもできました。あきらめずに頑張るのも自分の意思であり、それに対して「やめておけ」というのは「いらぬお節介」ということもできました。
ところが、現在では、いったん法科大学院に入学すると、自分は法律学に適性がないのではないかと悩み初めても、簡単に自分の意思で法科大学院をやめることはできません。
学生は、とてもつらい日々を送らなければならないことになります。
逆にもっと頑張りたいと思っている人も、法科大学院で進級できない、あるいは卒業できないということから放校となり(6年間しか在学 できないとしている法科大学院が多いと思います)、司法試験を受験させてもらえないという悲劇も生じます。
予備試験の受験資格を制限するべきだという主張は、法科大学院で充実した教育を受けた人だけが本来法曹資格を取得できるようにするべきであり、そのような教育を受けた人は、基本的に(7~8割が)司法試験に合格できるようにするべきだという考えが根底にあります。
ところが、前に述べたように、法科大学院には法律学になかなかな じめない人もたくさん入学してきています(ただ、私は、こうした人達も、あきらめずにじっくりと年数をかけて正しい勉強を続ければ、いつかは合格できると思っていますが)。こうした人達が、わずか2~3年の教育で法曹資格を取得できるということになれば、法曹の質の低下につながってしまいます。
現在の制度を続ける限り、日本の司法の未来は暗いと思わざるを得ません。
この教員の方の「嘆き」の文章は、今度内閣の下で設置されるという司法試験制度など法曹養成のあり方を検討する「フォーラム」の委員の皆様にぜひ読んで頂きたいものである。
日弁連がおそらくフォーラムに(あたかも「日弁連会員の総意」であるかのごとく)提出するであろう「法曹養成制度の改善に関する緊急提言」よりもはるかに説得力があると思うのだが。
この教員の方の言われるようにロースクール制はそもそもの制度設計自体に問題があるのだから、統廃合によって数を減らせば解決するというような単純な問題ではないだろうに。
私の過去の関連記事:
こちらのロースクール教員、元ロースクール生の嘆きもお読み下さい。
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ロー教育に関して一言述べさせて頂きます
「受験指導は禁止されている」を口実に、
<学問的にも>・実務的にも・試験対策としても、あらゆる意味で価値のない授業をする教授が擁護されてしまっている。
ローの授業の中身が何の実証もなく、イメージで語られ、まるで、東大教授がすべてのローにいるかのごとき幻想で語られる。
特に、旧試験合格者にはこうした傾向があると思う。
中堅・下位ローでは信じられない授業がまかりとおっているのに・・・
こんな授業にでているときに味わう屈辱感・・・
本当に嫌なものです。
付言するに、「授業の中身の善し悪しが学生に分かるのか」といった指摘に対して、実は問題教授の存在はローの教員も把握しており、学内政治の関係で問題教授を排除できていない現実を述べておきます。
投稿: | 2012年8月17日 (金) 17時57分