裁判員制度の欠席者に過料が科されることはあるのだろうか?
先日、裁判所職員による川柳や狂歌をご紹介したが、その中に過料についての狂歌もあった。
欠席者の増加に伴い、いよいよ過料を科すことも検討されているのだろうかと思っていたら、こういう新聞記事があった。
裁判員手続き出席率が低下 県内裁判、3件目は10人欠席 徳島新聞 2010/3/17 15:22
欠席者への過料は裁判員法112条で規定。「審理を担当する裁判体が正当な理由の有無を確認して過料を科すかどうか判断する」としており、制裁の決定は事実上、職業裁判官の裁量に委ねられている。
地裁は「裁判体が判断するために欠席理由を調査しているかどうかや、出席率低下への対策などについては答えられない」とする。ただ、実際に過料は科しておらず、欠席理由の調査は行っていないもようだ。最高裁によると、全国の地裁の対応も同じで、これまでに欠席者に制裁を加えたケースはないという。
裁判所にとって、欠席に「正当な理由」があるかどうか調査して判断する労力たるや大変なものだろう。ただでさえ、裁判員裁判によって裁判官、書記官、事務官の負担は増えたのであるし。
しかも、仮に裁判所が正当な理由のない欠席と判断して過料を科したとしたら、もともと裁判員制度は国民の要望によって導入されたものではないから、国民の不満が爆発する可能性もある。ただし、「国民の義務」と思い忙しい中時間を工面して出席した人からすれば、正当な理由なく欠席した人は腹立たしいであろうから、このような不公平感をどうするかも問題だ。
元判事の西野喜一新潟大学法科大学院教授は「出席率の低下は当然」とみる。理由に<1>裁判員制度そのものに無理がある<2>もの珍しさが薄れてきた<3>簡単な事件ばかりでなく、大変な負担を伴う事件も審理することが理解されてきた-などを挙げる。
過料は刑事罰でないため時効がなく、さかのぼって欠席者に制裁を加えることも可能。ただ、西野教授は「過料決定という制裁で脅さないと、国民が制度に参加しないのを裁判所が認めたことになる」と指摘。「今のところ必要な候補者数は出席しており、裁判所としては過料を科すのは避けたいところだろう」との見解を示した。
西野教授のご意見はごもっともである。
確かに「今のところ必要な候補者数は出席しており、裁判所としては過料を科すのは避けたいところだろう」というのが裁判所の本音だろう。
しかし、それでは真っ正直に出席して裁判員に選任されてしまい、否認事件や死刑求刑事件などの審理で長時間拘束されて呻吟した裁判員はどうなるのか。あまりに不公平ではないのか。
もともと国民の支持が得られないまま拙速に導入してしまった裁判員制度の限界はこんなところにも顕れている。
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