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2010年3月 7日 (日)

虚飾の塔(その5)

引き続き派閥の話。

 なぜ、派閥にそこまで忠誠を尽くすのか?

 弁護士に対する電話かけが大変なことは、久保内統弁護士が弁護士と派閥・選挙で書かれているとおりである。

 私も、何度か電話かけの経験(但し、派閥や選挙とは関係ない件で)はあるが、それはそれは大変である。  

 なにせ、弁護士はいつも法律事務所にいるわけではない。裁判所に行ったり、法律相談に行っていたり、打ち合わせのためなどで出かけていることが多いのである。また、事務所にいるときは、依頼者との打ち合わせや書面の作成や記録の整理・検討などをしていることが多い。だから、電話をかけても事務所にいなかったり、打ち合わせ中などを理由に電話を取り次いでもらえないことが多いのである。

 電話をかけてもかけても留守だったり事務員に取り次いでもらえず、何度もかけ直さざるをえないことが多く、本当に辛くしんどい作業なのである。

 にもかかわらず、派閥の長に頼まれると、なぜそこまでするのか?あるいは、そこまでしないでも、派閥の方針に無条件に従ったり、派閥推薦の候補者に票を入れるのか?  ここらへんは、多くの地方の弁護士には謎であった。

 今回、大阪の弁護士らから(直接、間接に)情報を得たので、その情報をもとにちょっと考察してみた(但し、情報源は明かせないし、私の勝手な思い込みだと思う方はそれはそれで結構です)。

1 派閥に従うことで何らかの利益が得られるから?

(1) 典型的なのは、派閥の方針に従っていると、先輩から仕事をまわしてもらえるというもの。これが一番分かりやすい理由。

  具体的には、法律相談などの交代を優先的に派閥内の後輩にまわす、独立当初で仕事がほしい若手に仕事を紹介するなどをしているようだ。

 聞いた話だが、自分が実際に担当する気もない法律相談の割り当てを受け、それを同じ派閥の若手弁護士にまわすことで、若手弁護士を手なずける人もいるとのこと。

 都会では弁護士数が急速に増えているので、法律相談の機会やちょっとした仕事の紹介もありがたいため、これを利用してますます派閥の長の力が強くなる傾向にあるようだ。

 あるいは、これも間接的に聞いた話であるが、派閥の長ともなる方々は大企業の顧問先をたくさん持っていて、その大企業の系列企業の仕事を派閥内の弁護士に割りふったりすることもあるそうだ。利益相反となったり、自身の取扱分野ではないために、自身ないしは自身の事務所内で引き受けられない事件を派閥内の他の弁護士にまわすということもしているという。

 そして、事務所のボス弁が派閥のバリバリの幹部だったりすれば、(今は弁護士過剰により就職難であるから、ようやくその地位を手に入れた)イソ弁としては選挙や総会で派閥の方針に逆らうというのは難しいだろう。

(2) こういう仕事がらみ以外にも、弁護士会で将来副会長などの役職を得たいという野心のある会員は、派閥の推薦が必要となるから、まず派閥の方針に逆らわない。

 私は、執行部提案の政策に対する反対運動に参加したことがあるが、将来副会長や会長をねらっている人はまず執行部の意向(=派閥の長の意向の場合)執行部に逆らわない。電話かけをすると、そういう人はすぐに分かる。こちらがいくら反対する理由を述べて協力を求めても、はっきりした理由も語らず(ムニャムニャと)断られる。それで、私も「あっ、この人副会長ねらいね、いくら説得してもダメだわ。」と、すぐに電話を切るのである。そして、数年後、その人は、案の定、派閥の推薦で副会長になっている。この私の予想はほぼ百発百中であった。

 もっとも、中にはきちんと自分の意見を述べて執行部案に賛成したり、自分の意思を曲げずに執行部案に反対したりする方もおられ、そういう方も副会長や会長になっておられるが、ごく少数といっていいと思う。私は、こういう少数の方々を今でも大変尊敬している。

 そのほかにも、派閥の長にさからうと、審議会の委員などに推薦してもらえない、などということもあるらしい。

 弁護士会や行政機関などで将来相応の地位を得たいと考えている弁護士は、弁護士会の執行部や派閥の方針にはまず逆らわない。

 こういう野心のある人は今では減っている気もするが、(見かけによらず)こういう野心を心中強く抱いている人は少なからずおられるようだ。

 こういう方々にとっては、派閥の力というのは「なくてはならないもの」というわけだ。

(3) 派閥から得られる利益というのは、このような直接的なもの以外にも、なんとなく群れに属していたい、群れに属していれば安心だ、という抽象的な期待感というものもあるような気がする。これは弁護士に限らず、日本人特有のものかもしれない。

 都会では派閥の会合以外に弁護士同志で集まって会話する機会があまりなく(地方では弁護士会の委員会や私的な研究会などで集まる機会が結構ある)、個々の弁護士は孤立しがちになる。

 疎外感を抱きやすい弁護士が派閥という群れに頼りたくなる、なんとなく派閥に属していれば先輩に守ってもらえるかも、という淡い期待を抱くのは分からなくもない。

 また、イソ弁の場合、ボス弁の派閥に自動的に入ることが多く、新人のときからその派閥の色に染められていくので、その派閥の方針に疑問を抱く機会がなくなってしまうということもあるだろう。

 そして、その派閥の方針に逆らうと「異端児」とみなされ、群れに属することが難しくなるということがあるらしい。

 (つづく・・・次回はいよいよ「派閥の方針に逆らうとどうなるか?」について書きます。)

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