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2010年1月 9日 (土)

弁護士、司法書士と会わないで依頼する債務整理はあり?ーその1

 きょうは、ちょっと債務整理の事件について書こうと思う。

 最近、弁護士や司法書士の債務整理の広告をあちこちで(テレビのCM、電車内の広告なども)見かけるようになった。

 そういう大々的に全国規模で宣伝をしている事務所の一つに依頼して困ったことになってしまった方からの相談や依頼を受けるようになったり、他の知人の弁護士からも同様の困ったことになった事案を聞くことがあって、あまり関心のなかったこういう広告やそういう事務所の契約書をじっくり見る機会があった。

 そうしたら驚くことばかりであった。

               

 私は、20年近く、債務整理事件を扱っている。多いときもあり、少ないときもあるが、ずっと取扱事件の一つにしている。

 最近こそ、債務整理事件は過払い案件であれば弁護士にとってもちゃんと報酬をもらえる事件となっているが、昔はサラ金やヤミ金との対決が大変であった。もともと資力がない人が多いので、法律扶助案件も多く、採算が取れない事件も多かった(今でも、そういう事件は多いが)。

 破産事件の報酬を分割払いにしたら、途中で払ってくれなくなって行方不明になってしまう人もたくさんいいた。私も、結局、殆どただ働きとなってしまった事件の数は相当のものである。

 しかし、債務整理事件にまじめに取り組んできた弁護士は、皆そういう経験をしつつ、割に合わない事件も断らずに引き受けてきたのである。

               

 かつては、そういう事件が多いので、引き受けない弁護士も多く、今のように自治体なども多重債務者問題に力を入れていなかったので、多重債務者の救済が遅れた原因ともなっていた。

 その意味では、弁護士の広告が解禁されて、弁護士の引き受け手も多くなり、多重債務者が相談しやすくなったのであれば、それはそれで歓迎すべきことのように思える。

 ところが、過払い事件がお金になるようになってから、「借金の相談は無料で受け付けます。電話、ファックスのみで簡単に債務整理ができます。事務所に来て頂く必要はありません。」などという弁護士や司法書士の宣伝が目立ってきた。

 私は、一度も弁護士や司法書士に会わないで本当に債務整理ができるものなのか、と思っていたが、実際にそういう広告を出している事務所は電話やファックスだけで処理しているらしい(実際にも依頼者からそうだったことを確かめた)。

 最近になって、日弁連も一度も面談しないで引き受けるのはダメという指針を出したが、弁護士でも一度も面談しないまま(病気でやむを得ない場合などを除く)引き受けていた人がいたということ自体が驚きだ。

 福井秀夫氏などは、債務整理は定型的事件だから「ボンクラ」でもできるとか言いそうだが、債務整理は、その人の生活状況、借金の額、借金をすることになった経緯、資産、収入など非常に細かいことを把握しつつ、相当面倒な債務調査をした後に、債務整理の方法を決めなければならず、とても定型的事件といえるようなものではない。

 任意整理、破産、個人再生、どの方法を取るのが依頼者にベストかを判断するのは、結構難しいものである。私は、今でも迷うことがよくある。法律の知識も必要だが、その地域の裁判所の運用(各地の裁判所によって異なることも多い)なども影響するので、裁判所の書記官に尋ねながら慎重に申し立てを準備することもある。

 名古屋地方裁判所の場合、非常に書類のチェックが厳しく(たぶん全国でも1、2を争う位ではないか)、破産や個人再生の申立書類の補充・追完は依頼者にとっても弁護士にとっても大変な作業となる。書記官が、しっかり書類を見ているのには本当に感心する(通帳に記載のある取引の一つ一つまでしっかりチェックされる)。

                 

 また、依頼者が望む方法では、真の救済が見込めない場合もある。

 たとえば、裁判所にかかるのはイヤだから、なんとか収入から分割返済をしたいと言う方は多いが、家計簿を書いてもらうと収入と支出の比較で、返済が難しそうな場合もある。ご本人は「一生懸命節約する。頑張る。」と言われても、人間できることとできないことがある。精神力だけでは3年も5年も毎月厳しい節約生活に耐えつつ返済することは難しい。無理な任意整理をすれば、途中で支払えなくなることは目にみえている。

 そういうときは、家計簿のチェックが重要で、私は何度も家計簿を書いてもらったりして、本当に返済が可能か検討させて頂いている。依頼者が男性の場合、家計を握っている奥さんの協力も必要だから、原則として奥さんにも事務所に来てもらっている。

 家計簿といっても毎月の収支を1枚の紙に項目ごとに書いてもらうだけだが、結構それでもいろいろなことが分かる。こういうのには普段の主婦感覚が役立つ。私は主婦の事務員に見てもらったり、自分自身も見て、家族の人数のわりに食費が多すぎでしょうとか、日用品の項目に全く支出がないがそれはないでしょう、などとチェックをしている。チェックしているうちに、思わぬ支出が発覚して、ご本人が思っていたほどには黒字ではないことが判明することも多い。このようなことで、本当に返済が可能か原則として2,3ケ月位はみせてもらっている。

 破産や個人再生事件でも裁判所は家計簿をしっかりチェックしている。先日は、裁判官に毎日の家計簿を提出せよと言われたくらいである。

 こういうことは、依頼者と一度も面談せずにできることではなく、場合によっては何回も事務所に来て頂く必要もあるのである。

            (つづく)

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