裁判員制度についての司法関係者の本音
おもしろい記事である。大新聞では書けない内容だ。
(福岡県民新聞)
「心配せんでも、早晩破たんするよ」。数年前、裁判員制度について話を聞くと、ある法務省関係者はこう答えた。この人物は当時、制度を推進する部署にいたにもかかわらず、である。
以来、多くの司法関係者にこの制度について率直な感想を聞いてきた。だがそのほとんどが反対・否定派で、本気でうまくいくと考えている者はいなかった。
この法務省関係者の「早晩破たん」発言は、大方の司法関係者の本音だと思う。私もそう思っている。
刑事事件の弁護 受けなければいい
「検事もしょせんは役人。国や役所がやろうとする方針には、最終的に従うでしょうね」。
こう話すのはある弁護士だ。
「ですが、弁護士の9割は制度に反対しているか関心がないか。賛成派は日弁連幹部をはじめとするごく一部の人たちです」。現在、国選弁護人の登録数が減り続けており、弁護士会でも大きな問題となっている。裁判員制度は殺人、放火など重大な事件にのみ適用されるため
「多くの弁護士が『面倒に巻き込まれたくない』と、刑事事件を敬遠している」(同)のだという。
「どうせ自分は関わらない、だから関心がないという人が多いのです」。日弁連が制度の旗振り役を務めているため、表立って反対を唱える弁護士は少ない。だが明確に反対する弁護士は口をそろえて「被告の権利を守るという視点が欠落している」と話す。
これも本当だ。
私は今回の愛知県弁護士会会員を対象とした裁判員制度についてのアンケートに回答しなかった弁護士は、少なくとも裁判員制度に「賛成」ではないと思っている。この記事にあるように「どうせ自分は関わらないから関心がない」という人が多いだろう。日弁連が旗振りをしているので「反対しても仕方がない」とあきらめている人も多いだろう。
アンケートでは裁判員制度に反対の理由として「連日開廷など短い審理期間では十分な審理を期待できず、被告人の防御権を侵害する。」「弁護人が短期間に集中的に仕事をしなければならなくなり、弁護活動が十分に行えない。」を選択するものが多かった。
裁判員制度に「被告(正しくは被告人)の権利を守るという視点が欠落している」と考えている弁護士が多いことは明らかだ。
「そんなバカなことは止めろ」
多くの関係者が疑問視している新制度。それでは一体誰が、なぜ、推進しているのか?
「新制度が始まるという前提でやってきたから、根本的な問題について考えたことがない」(若手弁護士)
「ある年齢層の弁護士は『市民』という言葉に特別な感情を持っている。市民が参加すればとにかく良くなる、と。そんな連中が推進している」(中堅弁護士)
「現場を知らない学者の発想。間違いなく制度は破たんする」(検察関係者)
これも納得。中堅弁護士と検察関係者の発言に同感。
この中堅弁護士の「ある年齢層」というのは違うかもしれないが、一部の弁護士が「市民が参加すればとにかく良くなる」という幻想を頂いていることは確かだ。
私は、あの光市母子殺害事件のあとで、とてもそのような幻想を抱くことはできない。
今回の愛知県弁護士会会員を対象とした裁判員制度についてのアンケートでも、裁判員制度に反対の理由に「裁判員の判断にメディアによる世論操作が影響を与える危険がある。」を選択したものが多かった。
本当に司法が良くなるのか分からないまま走り出そうとしている裁判員制度。一度やると決めたら問題があると分かっていても最後まで止められない―「日本のお役所仕事の典型例」となる可能性は、否定できない。
最後にある法務省関係者の言葉を紹介したい。
「アメリカに研修に行った時、『日本でも陪審員制度のような新制度を導入する』と話すと1人の例外もなく全員が『どうしてそんなバカなことを』と驚いた。『すでに陪審員制度の限界は明らかになっている。それがこちらの常識。今からでも遅くない、止めた方がいい』と」。
(本文中の太字、下線は私が付したもの)
アメリカでは既に限界が明らかという陪審員制度を中途半端に見習った裁判員制度。
莫大な税金をつぎ込み、国民からも司法関係者の大半からも総スカンを食いつつも、一部の狂信的な信奉者の方々や引くに引けない方々の力でこのまま実施されてしまうのか。
情けない限りである。
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- 裁判員制度についての司法関係者の本音(2008.09.07)


















コメント
TB有り難うございました。
私は法律の関係者ではありませんが、裁判員制度に大反対で、その見解はあなたとほぼ同じです。
弁護士会の代表がこの制度に賛成なのは、腐りきった今の司法が改善できると考えていると書いてあるのですが、本当なのでしょうか?陰謀論的に言えば、これにより、国民を腐った司法の共犯者にしてしまえと言うことではないのでしょうか。
多くの弁護士が良くない制度だと知りつつ声を上げないのは何故なのでしょうか?それは司法を守る立場での責任放棄ではないのでしょうか?
投稿: 飯大蔵 | 2008年9月 7日 (日) 00時21分
飯大蔵さんへ
>多くの弁護士が良くない制度だと知りつつ声を上げないのは何故なのでしょうか?それは司法を守る立場での責任放棄ではないのでしょうか?
ごもっともなご意見です。
しかし、それができないのです。
話せば長くなりますが、今の弁護士にはそういう力がありません。大量増員の結果、競争が激化し、本業以外のところで活動する余裕がない弁護士が殆どです。
また、日弁連の執行部が裁判員制度の旗振りをしているときに、「反対運動」をすることは容易なことではありません。
アンケートを実施するだけでも大変な抵抗がありましたから(私の以前の記事をご覧下さい)。
国民と政治家に頑張って頂くほかありません。
投稿: M.T.(管理人) | 2008年9月 7日 (日) 01時30分
この記事に直接は関係ないかもしれませんが。
法律というのは、プロによってのみ制定されるわけではないですよね。
例を挙げれば、上限金利の引き下げなどは経済のプロが考えたら失笑ものだと思います。(私は経済のプロではないですが)公式の上限金利は引き上げることが闇金撲滅などには必要でしょうけどね。
http://www.waseda.jp/prj-ircfs/pdf/ircfs06-002.pdf
立法府で法律が定められるときには、特定の分野のプロが見たらおかしな内容でも民意を反映しているのであれば、通ることがありますね。
そもそも法律自体が素人考えに基づいて定められることがあるということに司法の人たちはどういう感想を持っていらっしゃるのでしょうか。
裁判員制度を設けようと言い出したのは誰かは知りませんが、民意を反映した要望ならルール上愚挙でも通ってしまいますね。
三権分立と裁判員制度の整合性というのはどうなっているのでしょうね。わけわかりません。
投稿: まえやま | 2008年9月 7日 (日) 15時00分
はじめまして。以前より度々読ませていただいております。
このエントリーを読んで思わずうなずいてしまい、勝手ながら自ブログで引用しましたのでトラバさせていただきました。
ありがとうございました。
投稿: 秋原葉月 | 2008年9月27日 (土) 01時20分
初めまして、
私も
>多くの関係者が疑問視している新制度。それでは一体誰が、なぜ、推進しているのか?
に、多大の疑問を持つ者の一人です。
漠然と、「誰が得をする制度か?」などと、思案しております。
これから、拝読、勉強いたしたく存じます。
投稿: nao | 2008年10月 8日 (水) 03時19分
今更のコメントで申し訳ありませんが、とうとう裁判員制度の通知がどうこうなCMが流れ出して、やり場のない憤りに苦しんでいます。
どうしてこんな悪策でさえ、反対意見に対し聞く耳持たず、強制的に押し通そうとするのでしょう。
こうなったら、万一通知が来た時には、ヤバいやつと思われようが、性質の悪いクレーマーと思われようが「自分の様な低学歴で実際頭も良くない者に無理やりそんな事させて、金も暇もないのに職を失ったらどう責任が取れるというんですか?取れやしないでしょう!」と、くってかかるしかない…のでしょうか。
まさか、そんな本当の事を言って処罰受けるような、強きを助け弱きを挫くような国じゃあないですよね?日本は。(そう願いたい…本当にどうにかならないのかな?)
投稿: イニシャルKかY | 2008年11月26日 (水) 00時20分
そもそも何のための誰のための裁判員制度なんでしょう。市民も裁判に参加してより身近な存在にというのも分かる気がしますが。今の日本の国民ひとり一人責任のある決定を下せるのでしょうか。判決がどう影響するのでしょうか。そんなひとつの判決で自分の人生も狂わないのでしょうか。裁判員制度の実施は不安です。
投稿: 編集部.K | 2008年11月28日 (金) 22時21分
今晩は。
小規模企業の総務を担当しています。
私の周りで裁判員制度に関心のある人は全くいません。私も、昨年11月に、たまたまある団体主催の勉強会で、弁護士さんによる裁判員制度についての講演の司会をすることになり、付け焼刃で勉強して、関心を持った次第です。
それ以来、色々調べておりますが、10月29日に東京商工会議所と最高裁の共催による裁判員制度の説明会が開催されましたので、参加して質問を行い、解説者の最高裁判事殿に、下記の回答をいただきました。
①裁判員へのメンタルケアや、職務が原因で生じた損害の補償については非常勤の国家公務員として扱う。(これは公になっていますね)
②裁判員を務めたことと、損害発生との因果関係の立証責任は裁判員が負う。(これも止むなし?)
③ ①の事態が発生した場合に②の責任まで裁判員に負わされるのであれば、損害発生は「可能性」の問題とはいえ、そこまでのリスクを負担できないので、裁判員就任を辞退したいという申し出を行った人に対しては、過料を科すことなく、辞退を認める。
この③は、説明会が終わった後に、私が①②の質問をしたので大手新聞の法務担当記者の方が関心を持ってくれて、取材を受けている時に、わざわざ判事殿が出向いてきてくれたので、私が改めて質問したところ、3名の記者がメモを取っている中で回答をしてくださいました。
最高裁の判事さんがマスコミの前で、どこにも記載のないような事例に明確に回答して良いのかなとその時は思いました。 が、あとでよく考えてみると、6名の裁判員を選出するのに100名の候補者に呼び出し状を出せば、その中には平均3割・約30名の「引き受けてもよい」人が含まれる計算ですから、嫌がる人をそのまま除外しても裁判員制度の維持には影響がないということかもしれません。
本年4月に日経新聞に載った記事では、最高裁は、裁判員の約10%にメンタル的な影響が出ると想定しているそうです。今回の私が記述した事項について、突っ込んだ議論があまりされていないのが不思議です。
投稿: karao | 2008年12月 6日 (土) 23時00分