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2008年7月 7日 (月)

朝まで生テレビ裁判員制度特集の感想(少し)

 遅ればせながら感想を少し。

  パネリストはこちら→ http://www.tv-asahi.co.jp/asanama/

  リアルタイムで見ようと仮眠していたら30分寝過ごしてしまい、あわてて録画した。

 リアルタイムで見ても、録画を見ても、論客揃いのとてもレベルの高い議論だったと思う。

 田原総一朗氏の言うように「国会議員にこの議論の録画を見てもらいたい」という内容だった。田原氏は、(わずか2ケ月で裁判員法を全会一致で可決した)「日本の政治家がいかにいいかげんだったかよく分かった」とも言っていたが、これも同感。

 本当はゴールデンタイムに放映してもらいたかった。何しろ来年5月21日以降はほとんどの国民が裁判員に選任される可能性があるのだから。そして、多大な負担を強いられるのだから。

 本気で裁判員制度を考えるなら、今の日本の刑事裁判に裁判員制度を導入すればどういうリスクがあるか、国会でも十分に議論し、マスコミ等を通じて国民にも情報を提供した上で、国民の採択を仰ぐべきだろう(姜 尚中氏の言っていたように選挙で国民の賛否を問うてもいいほどだ)。

 特に目新しい論点は出なかったが、議論を聞いていて反対意見の方が論理的かつ現実的と感じた。

 賛成派に、小池 振一郎弁護士(日弁連の裁判員制度実施本部委員)と伊藤 和子弁護士(「誤審を生まない裁判員制度への課題」著者)が参加されていたのは興味深かった。

 先日、私の所属している委員会が実施を予定している裁判員制度についてのアンケートの件で、裁判員制度を推進する立場の弁護士の方々との会談に参加したが、その方々の主張されるところは小池弁護士と伊藤弁護士の言われるところとほぼ同じだった。

 裁判員制度の導入に積極的な弁護士は、現在の刑事司法に絶望し、裁判員制度によって風穴が開けられることを望んでいるらしい。

 確かに現在の日本の刑事司法は多くの問題を抱えている。人質司法、代用監獄、検察による証拠の不開示、推定無罪の有名無実化など、多くの弁護士が長年その打開を悲願としてきた。しかし、一向にその打開が図られない現実に疲れ、一部の弁護士が陪審制の導入に一点突破を賭けた。

 ところが、反対派との妥協により陪審制ではなく裁判員制度という中途半端な多くの問題点を抱えた制度となってしまった。 

                 

 最近、栃木県弁護士会が新潟県弁護士会に続いて、裁判員制度の延期決議を成立させたが、延期理由の一つに次のようなものがある。

 広範な伝聞例外、人質司法、自白偏重体質を温存したまま裁判員制度を実施すれば、手続が拙速に流れ、被告人の防御権を損ない、誤判の可能性が高まる。

  週間法律新聞 6月27日 第1769号 論壇(栃木県弁護士会会員 山下雄大弁護士)より

 山下弁護士は、延期決議の実現に参画した動因として、模擬裁判で主任弁護人を務めたときの次のような経験を述べられている。

 模擬裁判では、裁判員は調書を読まないことが当然の前提とされ、調書の内容を切り張りしてまとめた上で要旨の告知をするなど、証拠裁判主義に悖(もと)る運用が、「裁判員に負担を掛けない」との号令のもとに行われた。この模擬裁判の経験こそが、決議実現に参画した動因である。

                   上記論壇より

 朝生で、江川紹子氏が「裁判員は簡単にできます、気軽にできます、などという広報をしないでほしい。」と言っていたが、本当にそうだ。

 実際の裁判の評議は、ワイドショーのコメンテーターが(マスコミが入手したごく一部の裁判資料を基に)いいかげんな意見を述べるのとは違う。

 膨大な証拠書類をコツコツと読み、たとえ取り調べの全面可視化が実現したとしても膨大なビデオをよく見、よく聞かなければならない(調書を読むよりも時間がかかるかもしれない)。

 また、遺体の写真や解剖記録も見なければならないかもしれない。裁判員には刺激が強すぎるとCG化なども提唱されているようであるが、生の写真を見るのとCGの画像を見るのとでは心証が違ってくる可能性もある。

 裁判員が裁判官と対等に証拠を検討し議論をするためには、こういう裁判資料を裁判員自らがコツコツと読み解くことが必要だ。

 そうでなければ、職業裁判官と対等に議論をすることなどできないだろう。これは一般社会においても、たとえば会社の会議で資料を読まずに議論に参加できないのと同じである。

 たった3日でこういうことができるのだろうか。

 裁判員制度の広報、日本のメディア環境、司法教育の不備、国民の7,8割が裁判員制度に乗り気でないこと、模擬裁判などでも負担を感じた裁判員参加者が多かったこと、などに鑑み、現状において国民にこういうことは期待できないと思う。

 ごく一部には熱心な裁判員もいるかもしれないし、職業裁判官には及びもつかない優れた能力を持つ裁判員もいるかもしれない。しかし、多くの裁判員は他に職業を持ち、あるいは家事を抱えているのであるから、こういうことを期待するのは酷というものだ。

 裁判員制度の導入によって、日本の刑事司法の抱える問題点が打開できるとはとても思えない。それは非常に楽天的な希望的観測にすぎず、むしろ新たに深刻な問題を生むだけだと思う。

 裁判員制度を推進する方々も、拙速な刑事裁判を望んでいるわけではなかろう。

 裁判員制度を導入すれば、本当に今の刑事司法が抱える問題点を打開できるのか、その勝算について、現実的な観点から今一度考え直して頂きたいものだ。

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