刑事弁護の意義についての理解
コメントやトラックバックを読んでいると、先回(光市母子殺人事件の最高裁判決前後)のときと同様、刑事裁判や刑事弁護について誤解されている方が実に多いことに驚かされた。
今回は急に多数のコメントが送られてきたためその余裕がなかったが、少しずつその誤解を解くべく記事を書いていこうと思う。
これについては、トラックバック頂いたBecause It's There さんが「弁護士に対する懲戒請求と不法行為の成否~“母子殺害で懲戒請求数百件”との報道を聞いて」の末尾で
光市母子殺害事件の弁護団に対して懲戒請求が殺到したという事実は、煽った者がいたり、煽るようなマスコミ報道もその一因ではありますが、市民の側が裁判制度や刑事弁護に対する理解に欠けている点が一番の原因であるように思います。今後、裁判員制度・被害者参加制度の実施を考慮すると、裁判制度、法曹三者の役割、特に刑事弁護の意義に対する徹底した教育が必要不可欠であると思います。
(青字は引用、太字、下線は管理人による)
と記載されているが、まさにそのとおりだと思う。
これは本来、裁判員制度を推進した側の法曹関係者が真剣に取り組むべきことだと思う。
このまま裁判員制度の実施に突っ走ってしまうと日本の刑事裁判は大変なことになってしまう、と実感した1週間であった。
なお、Because It's There さんの上記記事は懲戒請求についての最高裁判決(平成19年4月24日判決)、下級審判決を分かりやすく紹介、説明され(私のブログなどよりも大変親切だ)、今回の懲戒請求(懲戒請求を勧めるHPで懲戒理由を記載したテンプレートまで用意されていたらしい)について分析もされている。
私のブログでは、最高裁判決(ヤメ記者弁護士さんのブログからの引用)を紹介したところ、「一般人に不安を与えるものだ」「懲戒請求をやめろという脅迫だ」とお叱りのコメントを受けた。
しかし、ヤメ記者弁護士さんは「アドバイスします!」と言われただけだし、私も「(懲戒請求した方、しようとしている方は)最高裁の判決をしっかり読んで頂きたい。」(私の希望にすぎない)と申し上げただけで、懲戒請求を取り下げろとも懲戒請求をするなとも申し上げていない(今回誤解を招かないように記事に※の文章を加えさせて頂いた)。
本来、懲戒請求についてはこういう判決もありますよ、こういうリスクもありますよ、と紹介し説明するのは、懲戒請求を勧める側ではないだろうか。
これは、弁護士がある法的手段を勧めるときに「こういう法的手段がありますが、これには関連のこういう判例があり、この判例からはこういうリスクも考えられます。」と説明しなければならないのと、お医者さんが薬を出すときに「この薬はよく効くけれど、こういう副作用もありますよ。」と説明しなければならないのと、同じだろう。
それに、最高裁のこの判決は法曹関係者の間では「懲戒請求をするとき(懲戒請求を依頼されるとき)は気をつけなくてはいけないな」と話題になっていたもので、何も今回の懲戒請求に限ったことではない。
それを指摘しただけで、そんなに文句を言われなければならないことだろうか(それでは、指摘しない方がよかったのだろうか)。
また、その判決を「読んで頂きたい」とブログで述べただけで(私は例のアピールをした508人の弁護士の1人ではない)詳しい説明までしなければならないのだろうか。
正直、「ご自身の懲戒請求が不法行為に該当するか、懲戒請求を勧めた弁護士に説明してもらって下さい。」と言いたいところだ。
今回の懲戒請求の最高裁の判例についてもそうだが、裁判員制度についても、ブログの記事にすると、制度そのものについて質問されることが多い。
これについては、裁判所、法務省、日弁連がそれぞれHPでQ&Aなどを設けて説明している。まずは、そちらのHPでご確認頂きたい。それで説明が足りているとは思わないが。
正直、こちらも、「裁判員制度を(強引に)推し進めた方々に説明してもらって下さい。」と言いたいところだ。
今、国は「紛争の事前抑制よりも事後解決」という方針を取っている。規制緩和によって行政等による事前チェックが働きにくい社会になってくるのだ。
一般の方々も油断していると紛争に巻き込まれかねない。
これからは、自分の身を守るために、自分で勉強しなければならないことがもっと増えてくると思う。
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