涅槃の境地
変なタイトルだけれど、最近はこういう心境なのである。
新小児科医のつぶやきの管理人さんが、末期癌患者が死を受け入れるまでの意識の変化(受容段階説)にちなんで、医師の方々が医療崩壊についてどのような意識の変化をたどるか説明されている(意識階段説というのだそうだ)のだが、「涅槃の心境」はその第5段階なのだそうだ。
ちなみに、この意識階段説というのは、こちら。
医療崩壊の存在自体の否定 | ||
トンデモ医療訴訟やお手盛り医療改革への怒り | ||
こうすれば医療崩壊を防げるの提案の摸索 | ||
何をしても無駄だとのあきらめ | ||
生温かく滅びを見つめる涅槃の境地 |
ちなみに、涅槃の意味はこちら→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%85%E6%A7%83 もっとも、「さとり」ではなく「諦め」の方に近い。
管理人さんは、更に、第六段階として、「覚醒・・・出来る範囲で医療崩壊に対し行動を起し始める 」を提唱されている。
私は、司法改革や刑事裁判について、最近この第五段階の涅槃の心境になっている。
多くの弁護士も司法改革(実質は司法改悪)について、この第四段階か第五段階にあるのだろう。
私も、ちょっと元気のいいときは第六段階になるが、大体が第四段階か第五段階である。
最近、週間文春(5月31日号)に
新人2000人 「底抜けおバカ弁護士」急増中
(ジャーナリスト 青沼洋一郎氏)
という記事が載った。この中身は全文引用したいところだが、著作権法違反になってしまうし、入力が大変なので、しっかり紹介されているPINEさんの記事を紹介させて頂く。
この週間文春の記事の内容は、若手弁護士にちょっと厳しすぎるとは思うが(真面目で優秀な若手弁護士も多い)、弁護士人口激増の経緯や現状などの説明はそのとおりである。
ちょっとだけ文春の記事を引用すると(青字が引用)
政府の増員計画の根拠となった規制改革・民間開放推進会議では、大量に生み出された弁護士を自由競争させることにより、優秀な人材が自然淘汰で残るという、まさに市場原理が働いていた。
「しかし、弁護士は商品ではない。まして、並べているだけで、どれが優秀な弁護士かなんて、依頼者の側から判断なんてつくはずもない」(中堅弁護士)
就職先も見つからず、社会に放り出された新人弁護士は、そうなるといきなり独立という形を取らざるを得なくなる。それこそ、自宅アパートの一室で携帯電話を頼りに弁護士業務をゼロから始めるのだ。
「医者でいうなら新人がいきなり心臓手術を行うようなもの。パイロットなら、いきなりジャンボ機を一人で飛ばすようなもの」(若手弁護士)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
事態を重く見た日弁連では、せめて事務所の軒下だけでも貸してやってくれと、「ノキ弁」制度を提案しはじめた。
「給与も仕事も与える必要はない。ただ事務所の電話や設備を貸して、あとは勝手に仕事をさせておけばいいという、いわば軒下貸しの弁護士の契約を求めている」(ベテラン弁護士)
それを日弁連が主導するのだから、もはや危機的状況だ。
これが一般市民にどういう悪影響を及ぼすかについても文春の記事は言及しているが、こちらは上記PINEさんの記事に詳しい。
東京を中心に、本当にひどい状態なのである。
崩壊寸前なのは、何も医療ばかりではない。
さて、このブログのアクセス数は、今まで大体1日200から300程度だったのだが、ここ数日1,000を越す日が続いている。
どうしてなのかと思っていたら、昨年書いた光市母子殺人事件の記事が、今もヒットするためらしい。
同事件の差戻審が始まったことは知っていたが、ここのところ忙しくてワイドショーなどをあまり見ていなかったせいで、本村氏や弁護団の記者会見もちらっとしか見ていない。
なんでも弁護団の意見陳述や記者会見がたいそうな怒りをかっているらしい。
私は弁護団の意見陳述の内容を詳しく知らないので、具体的なことは何もいえないが、この問題については次のように考える。
1 この事件の全ての証拠(死体の解剖結果、鑑定書、供述調書など全てー特に解剖結果が重要)、それに被告人と弁護人の打ち合わせの内容が分からなければ、弁護団の真の意図など分からない。
2 弁護団の意見内容は、弁護団が創作したものではなく、被告人が述べていることである。それが常人にとうてい理解しがたく許し難いものであっても、弁護人としては被告人があくまでもその主張を望む以上、主張せざるをえない場合がある。
これについては、私のかつての刑事弁護についての記事(左のサイドバーにまとめてあるもの)を読んで頂きたい。
特に、
この事件について寄せられたコメントの質問に回答したものとして、
私の経験した具体例を掲げたものとしては、
をお読み下さい。
弁護人は、このように物理的にはありえない主張でさえ、主張せざるをえないこともあるのである。だから、私はそのような主張をせざるをえなかった弁護人を非難する気には到底なれない(私自身は根性なしだったので、辞任したり、委任を受けなかったりしたけれど)。
ましてや光市母子殺人事件の弁護団の主張は、少なくとも「物理的に」ありえないわけではない。被告人の異常性を主張するのであれば異常な動機や心理過程を主張するのは不自然ではない。
私がテレビを見た範囲では、昨年に比べると、マスコミやジャーナリストなどのコメンテーターの反応も冷静だった気がした。
しかし、日曜日のOOO委員会というのは違った。この番組には本当に驚かされた。
特に、
三宅久之氏の発言 「弁護士というのは昔から三百代言と言って、もともとたいしたものじゃないんだ。」
橋下 徹弁護士の発言 「皆さん、弁護団の弁護士の所属する弁護士会に懲戒申立をして下さい。」
勝谷誠彦氏の発言「週刊誌は21人の弁護団の弁護士全員の顔写真、氏名、経歴等、ついでに住所を公表すべきだ。」
これらが知識人と言われている方々のご発言である。
いったいこの国はどうなっているんだ。こんなことで、裁判員制度なんてまともにできるのか。
・・・・という具合で、私はまた涅槃の境地に陥ってしまった。
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» 弁護士の職業的責務/カズオイシグロ『日の名残り』 [yokores]
承前 社会全体から「お前はおかしい」「死ね」と言われたときに ブックマークのコメントに、また考えさせられました。 id:legnumさん; ただ被告人の供述に納得出来ない場合は断れるらしいのです。引き受けた=納得したって事じゃないんですかね http://b.hatena.ne.jp/entr... [続きを読む]
橋下弁護士は、刑事事件をおやりになったことがないのでしょうかねぇ。
投稿: PINE | 2007年5月29日 (火) 09時37分
PINEさんへ
橋下弁護士は何かの番組で「同級生に刑事弁護をよく頼まれる」と言っておられたので、刑事弁護の経験がないわけではないと思います。
ただ、否認事件等の戦闘的弁護の経験はないのではないでしょうか。
やっぱり否認事件等で検事や裁判所と真っ向から闘った経験がないと、弁護士でも感覚的に理解できない人がいるのではないでしょうか。
本件でも、弁護団に批判的な弁護士に、元検事の方が多いのには興味をひかれます。
投稿: M.T. | 2007年5月29日 (火) 22時48分
ひどいもんですね。
いっそのこと橋本弁護士に懲戒請求申し立てようかと思ってしまいます。
このひと人権派といわれる人たちに懲戒申し立てられたことがるらしく、その腹いせにこんなこと言っている気がしますよ。
投稿: 通りすがり | 2007年5月30日 (水) 16時26分
とうていあり得ないような主張に対しては、かえって心証を悪くする事を理解させるのも弁護士の勤めだと思うのだが(依頼者の利益を優先すればね)。
少なくとも、このような主張をせざるを得ない状況で、弁護士が21人も集まるって事自体が異常な事態だと思うよ。
投稿: HM | 2007年6月 1日 (金) 07時36分
HMさんへ
弁護士が21人集まったのは、業務妨害行為(脅迫、嫌がらせ等)が予想されていたからだと思います。個人攻撃を避けるために、集団で弁護に望むことは民事、刑事に限らずよくあることです。
(但し、実働はそのうちの数人程度)
本件では、その後、実際にも日弁連に脅迫状が届いたそうですから、予想があたったわけです。
投稿: M.T. | 2007年6月18日 (月) 16時10分
まずは、はじめまして。
NGと申します。
少しこのエントリに対して言いたいことがあるので少しだけ書かせていただきたいと思います。
ありえないような主張であったとしても、
その主張をせざるを得ないときがあるということを橋本弁護士は理解していないとの論調でしたが、橋本弁護士が怒っていたのは、何故第一審からその主張をしなかったのかということに対してです。
決して、主張の内容に怒っていたわけではなかったように思います。
実際橋本弁護士の発言の中にも、
依頼者が主張する内容がありえないようなことであったとしても、
主張せざるを得ないこともあるということを発言しています。
彼が問題視しているのは
今回問題となっている主張が第一審からではなくて、
上告審の段階で急に出てきたことに対して弁護士団の政治的意図(死刑反対等)が感じられるということに対してです。
そのあたりこのエントリではずいぶんと曲解されているように感じられますが、いかがですか?
投稿: NG | 2007年6月20日 (水) 02時27分
>NGさん
>今回問題となっている主張が第一審からではなくて、
>上告審の段階で急に出てきたことに対して弁護士団の政治的意図(死刑反対等)が感じられるということに対してです。
安田弁護士が光市事件の弁護を担当したのは最高裁から&一審二審ともに無期懲役判決(死刑ではない)、であることを考えると何が問題なのかがわからないのですが……。
投稿: coconut | 2007年6月21日 (木) 01時52分
今回の弁護団のあり方が司法制度の在りかたとして正しいのは分かるのですが、
結局それが多くの(と言うことについて根拠は無いですが)人間の感情とあまりに乖離しているのが問題ではないかと思います。
感情で裁かれる司法は問題外ですが、しかし今の司法制度も何か(具体的に問題点を挙げるのは難しいですが)歪なのではないかと感じずにはいられません。
弁護士の方々は今回の事件について「裁判は司法制度にのっとって正しく運用されている。だから弁護団やその主張に関する非難は完全に的外れだ」と考えるものでしょうか・・・
投稿: kei | 2007年6月27日 (水) 03時15分
>安田弁護士が光市事件の弁護を担当したのは最高裁から&一審二審ともに無期懲役判決(死刑ではない)、であることを考えると何が問題なのかがわからないのですが……。
すいません。よく分からないのですが、一審の頃から被告は主張していたが弁護士が何らかの理由で主張せず、安田弁護士になってからその主張を取り上げたってことですか?
橋下弁護士は、社会的関心が高い事件なのでそのあたりも説明すべきだって事を言っていたように思うのですが。
弁護士が法を破るのはダメですよね。理由が何であれ。そのあたりで橋下弁護士の行為が正しいかどうかは裁判で判決が出るでしょう。
弁護士が法の解釈を逆手に取る?見たいな事は普通になるんですよね。
それが裁判てものなのかもしれません。(少なくともそういう印象が強くあります。)
そういうものなので、勝ち負けの技量だけで判決がきまり、真実?見たいなものが不透明で埋もれてしまうのではないか…といった不安が残ります。
私のように法律の専門家ではない一般人にとっては、裁判官や弁護士などのモラルを信じるしかない……みたいな。
社会的に関心が高く非常に衝撃的な事件だったので、あの主張はショッキングでした。裁判中では難しいのかもしれませんが、説明義務(モラルとして)は有るかと思っています。
弁護士の方々にとっては、懲戒請求がマスコミ(と橋下弁護士)の煽りで~~の部分が論点なのでしょうが、私たちにとっては突然の主張の真意、その後の裁判の経過の方が気になるところです。
橋下弁護士は、非常に主観的な意見をはっきりと言うかたで、TVコメンテーターな印象です。弁護士としては有るべき姿ではないのかも知れません。全ての意見に同調できるわけではないのですが、1つの意見としては一貫して分かりやすいかな…と。(まぁTVは裁判所ではないですし)
さてこのblogですが、全てを読まずに意見をいうのは申し訳ないのですが、あえて。
何かの主張をするため通すために色々な事例を紹介したり、裁判官や陪審員(世論・読者)の心象・感情を味方につける為に事例や裏づけをだしたり……などなど。
裁判では当たり前のことですし、マスコミでも普通に行なわれていることだと思います。
度が過ぎなければ法的にもなんら問題はないでしょう。
しかし、そのような意図が見え隠れしだすと全てが雲って見えてきます。
実際はどうなのか分かりませんが、そういう意図をこのblogでもあの2審でも感じてしまうのです。
最近のマスコミもそうですが、嘘は言わなくとも意図をもって編集された偏った情報にはうんざりしてしまいます。
※読みにくい文章と個人的な意見で申し訳ありません。
投稿: 1031 | 2007年10月31日 (水) 03時09分