裁判員制度って誰が望んだのだろう?
裁判員制度に反対という国民は多い。
裁判員制度:地裁で模擬裁判 参加者の大半「裁判員いや」 /福岡(毎日新聞)
ー法科大学院の学生や新聞記者、裁判所職員の計18人が裁判員役で参加し、終了後の座談会で実際の裁判員裁判に参加したいか聞いたところ、「参加したい」と答えたのはわずか2人で、法曹関係者は落胆を隠せない様子だった。・・・・否定的な意見の続出に「参加者の顔ぶれを見ると、制度の趣旨を理解していると思っていたが……」とため息が漏れていた。ー
法科大学院の学生、新聞記者、裁判所職員という、比較的裁判に親しんでいる職業に就いている人でもダメだったようだ。
もともと模擬裁判に参加しようという市民は、裁判員制度に対して好意的な人が多いだろう。それでも、参加者がマイナスの感想をもらすという報道が多い。
裁判員制度:意見二分 前向き・否定、いずれも49%--札幌高検アンケ /北海道(毎日新聞
裁判員制度の導入を言い出したのが、国民でないことは確かだ。裁判員になりたくないという国民が多いことはアンケート結果により実証されている。
反対という弁護士も多い(少なくとも私のまわりでは賛成と言っている弁護士を知らない)。しかも、刑事弁護の経験がある弁護士が「反対」と言っていることが多い。
裁判官や検察官は知らないが(立場上、反対でも反対とは言えないだろうし・・・)、たぶん反対の人も相当いるだろう。
裁判員制度の欠陥を指摘する学者も多い。
一体誰が、こんな裁判員制度を推進したのだろう。人質司法、刑事裁判の形骸化、官僚的な裁判官制度など、もともと刑事裁判には問題が多かった。それを打破するために一部の司法関係者や政治家らが考え出したものらしい。
確かに司法への国民参加、司法の民主化は理想であるが、そのためにはもっと国民への法教育が必要だ。このままでは、マスコミの扇情的な犯罪報道のもとで、裁判員が予断を抱かずに公正な判定を下せるはずがない。ワイドショーも、凶悪事件を繰り返しセンセーショナルに報道するばかりではなく、裁判員制度のための教育番組でも組んだらどうか(視聴率は取れないだろうけど)。
裁判員制度を本気で推進したいのなら、裁判員制度がはじまる前にもっと刑法や刑事訴訟法の基本理念について国民に分かりやすい言葉で教えるべきだ。しかし、誰がそれをするのか。
裁判が始まってから裁判官が裁判員に教えるのでは遅すぎる。もしそういうことをしたいのなら、裁判官の数をもっと増やすべきだ。
それに刑事裁判を充実させたいのなら、ある程度の審理期間はどうしても必要だ。裁判員の都合に合わせた短期間の審理で、検察側と異なり何ら捜査手段を持たない弁護人が、低廉な国選弁護報酬で、十分な弁護活動などできるはずがない。外国の弁護士ドラマによく出てくるような優秀な調査員など弁護士は雇えないし、日本の弁護士ドラマのように弁護士が調査員のような仕事をしていたら事務所は直ぐにつぶれてしまう。
最近、国選の刑事の否認事件を担当したある弁護士が、国選弁護報酬を時給で計算したら、1時間500円に充たなかったという。どうやったら、そんな報酬で短期間のうちに十分な準備をして刑事弁護ができるのか。
裁判員制度を推進している方々は、こういう現実的な問題を真面目に考えておられるのだろうか。
裁判所のロビーに行くと、ちょっと前まで裁判員制度をアピールする黒色背景に黒ずくめの衣装の長谷川京子の特大ポスターが何枚も張ってあった。なぜ長谷川京子が一人で立っているポスターなのかよく分からない。この紙質の良さそうなポスターの制作費に国は一体いくらつぎ込んだのだ。
本気で裁判員制度をやりたいなら、もっと他に金の使い道があるだろう。
P.S. この際、裁判所のホームページにサイバー裁判官(あるいはサイバー長谷川京子)を登場させて、忙しい実物の裁判官にかわって、刑法や刑事訴訟法の基本的な説明をさせるというのはどうでしょう。
※ マクパペットを使ってこんなのを作ってみました(試作品です)。吹き出しをクリックすると言葉が変わります。
« サイバーキャット | トップページ | 何とかして!ココログ。 »
「刑事弁護」カテゴリの記事
- 橋下懲戒扇動事件の最高裁判決(2011.07.15)
- 映画「BOX 袴田事件 命とは」を見て(2011.03.12)
- 熊本典道元裁判官についての中日新聞の記事(2010.06.17)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
法務省は、裁判員制度の実施に向けて、刑法、刑事訴訟法等の一般向け広報普及活動を計るべきですね。裁判所がすべき面もあるだろうが、予算、組織等からして法務省としても実施すべきと思います。
最近のマスコミは被害者の死刑要望を組み入れないことは、司法の犯罪であるといった論調に思えて仕方ない。
人を刑法により裁くとは何を意味するのか。真実にどこまで迫れるのか。死刑とは何であるのか。ある観点では、神に成り代わることでもあると言える。
TVは視聴率が重要であり、NHKも最近は視聴率重視でしか番組を製作していないと感じる。法務省がスポンサーとなって裁判員制度実施に向けての番組を提供してはどうかと思う。その際は、おおいに裁判員制度の反対論も取り上げればよいと思う。(勿論現状の問題点も)
さもないと、裁判員制度が失敗する恐れもあるのではと懸念する。
投稿: 疑問者 | 2006年7月 9日 (日) 11時52分
私から見ると、裁判官制度を推進する人も、裁判官も、刑事訴訟に関係する人も、管理者様もみんな司法関係者ということで同じに見えます。裁判員制度に問題があるとおっしゃっていますが、管理人様も同罪だと思いますよ。
こういう物言いが不当だと思われるかもしれません。しかし管理人様は、医療過誤を犯した医師は現に居るといって聴かず、それだけを主張し結局他の問題に耳を貸さず理性を保った判断をされていません。
裁判員制度も、管理人様たちがもっと運動なさって改善するよう努力なさればよろしいのに。努力が足らないのではありませんか。時給500円は勤務医から考えると比較にならないほど高給ですよ。文句ばっかりおっしゃっているように聞こえます。
いつも管理人様が医師を責めておられる概要をそのままお返しすると上記のようになります。
投稿: 内科医 | 2006年7月 9日 (日) 12時34分
ー管理人様は、医療過誤を犯した医師は現に居るといって聴かず、それだけを主張し結局他の問題に耳を貸さず理性を保った判断をされていません。ー
裁判員制度(に限らず間違った司法改革)を推進した弁護士も現に存在します(内輪では「戦犯」と言っています)。
医療過誤を犯した医師がいるように、こういう弁護士がいることを私は全く否定しません。
ー裁判員制度も、管理人様たちがもっと運動なさって改善するよう努力なさればよろしいのに。努力が足らないのではありませんか。ー
内輪の問題となるので書いてはいませんが、やっています。
医師の方々が仕事に追われるように、私たちも仕事に追われ(これからますます自由競争が激化するため生計を立てるための仕事に追われるでしょう)、委員会活動(無償活動)に追われ、弁護士会も事実上崩壊しつつあるため、組織的な運動ができない状況です。
ー時給500円は勤務医から考えると比較にならないほど高給ですよ。ー
勤務医の方々は収入ゼロとはならないでしょうが、開業している弁護士は国選弁護ばっかりやっていれば完全に赤字です。
また、勤務弁護士は都市部で就職難の状況で、机を置かしてやるかわりに給与ゼロ(弁護士はどこかの事務所に登録しないと仕事ができない)、初任給20万円台などというところも出てきています。
投稿: M.T. | 2006年7月 9日 (日) 13時34分
「司法占領」の前に、「裁判官が日本を滅ぼす」(新潮文庫)という本を読みました。思うに、「こんな司法関係者ばかりだ」と考える人たちが裁判員制度を考えたのでは?「常識がなく、前例踏襲も極まって、このような犯罪があれば結論はこれこれというようなロボット化した裁判官に裁判を任せっ放しではいけない」と。そこまでは正しいかもしれないけれど、「常識」というものがマスコミのセンセーショナルな報道で作られるのなら、裁判員制度自体が危ういことこの上ないですね。何しろ無罪と司法が判断したものを、「有罪にすべきだった」とか結構言いますしね。
それにしても時給500円は確かにひどいと私も思います。コンビニの深夜店員より安い!真っ当に弁護してもらうためにこれだけしか払ってもらえなければ、やれることも限られてしまうでしょう。
しかし勤務医よりましという意見がありましたが、実際問題当直とか救急当番など引き受けても、勤務医の場合雀の涙の手当しかつきません。時間給にしたらどこもおそらく500円未満でしょう。それ以上つけようとすれば赤字となって病院の経営が危うくなる。今でもそうなんですから、これ以上医療費を削減するなんて医療者の側から見れば論外です。
投稿: 山口(産婦人科) | 2006年7月10日 (月) 18時20分
記事の中に出てくる弁護士は、勤務弁護士ではなく事務所を経営されている弁護士だと思います。
時給については、勤務医とではなく、民間の病院や診療所を経営されているお医者さんと比較してもらえるとありがたいです。
投稿: PINE | 2006年7月11日 (火) 09時36分
裁判員制度開始にあたり、ある特定の人たちに巨額の富がもたらされるのでしょうね(制度運用、維持コストの名目で)
そもそも、国民の常識を司法に反映し、もって司法に対する信頼を向上させるとする表向きの政府コメントを実現ならしめるのであれば、労働裁判や民事裁判にも裁判員制度を導入すべきです。
そこには、おそらく経団連(雇用主)からの圧力と、米国からの圧力(刑事裁判であれば米国企業が被告人となることはまずない。民事に裁判員制度が持ち込まれることで、かつて米国の陪審員制度の下日本企業が不当な賠償金を支払わされたのと同じ憂き目に合わせないための圧力)が存在し、彼らを納得させつつ、利権を我が物にするための制度開始に躍起になっている官僚、政治家たちの姿が目に浮かびます。
投稿: 匿名希望 | 2007年5月28日 (月) 06時43分
はじめまして。
こんな制度が始まっても「長続きしないだろ」と思っている健全な思考能力のある国民は多いでしょうね。…にしても、裁判員制度に限らず、マスコミで報道される弁護士同士の泥仕合といい、最近の法曹界のダークイメージはなんとかならないですか? 光市事件など、こちらは真摯に成り行きを見守っているのに、担当弁護士が自身のブログで軽いノリでべらべらべらべら。なんか読んでいて非常に感じ悪いです。うまく言えないけど、裁判や法律そのものが、なんというかすごく安っぽい感じを受けます。弁護士はHP持つななんて言うつもりはありませんけど、HP書くより他にもっとやることあるんじゃないかな?
投稿: 非専門家でごめん | 2007年10月15日 (月) 23時41分