ある覚せい剤犯の思い出
久しぶりに刑事弁護について真面目に考えていたら、こんな経験を思い出した(守秘義務との関係で事実とは多少異なる)。
当番弁護士として覚せい剤取締法違反で逮捕された被疑者と接見したときのこと。
狭い警察署の接見室で、この被疑者と会ったとき私はギョッとした。両手を見ると、残っている指の方が少ないのだ。
事情を聞くと、覚せい剤使用の常習犯であり錯乱している最中に自分の指を次々と切断したという。
覚せい剤は精神的依存性が強く、使用を断ち切るのが非常に困難といわれている。私はたくさんの覚せい剤常習者を見てきたが、ここまで肉体を損傷している人ははじめて見た。こういう人は、本当は刑務所ではなくしかるべき医療施設に入れた方がいいと思う。しかし、日本にはそういう専門の医療施設が殆どないのが現状だ。
この人は、覚せい剤使用の罪で刑務所から出てきたばかりだという。刑務所から出たその日に公衆電話ボックスに入って電話をかけようとしたら、電話帳の上に覚せい剤が置いてあったのでつい出来心で使用してしまい、おかしくなったところを逮捕されたのだという。
そんな偶然があるだろうか?
よく裁判では、検察官が覚せい剤使用の被告人に対して「今、目の前に覚せい剤があったら、あなたは使用しませんか?」と聞くが、まさにそんな状況だったわけだ。
私は正直信じられなかったし、そのような弁明が公判で通用するとも思えなかった。
当番弁護士には、被疑者の刑事弁護の委任を必ず受けなければならない義務はない。被疑者として取り調べを受ける際に注意すべきことやその後の手続などについて説明するだけでもよいのである。私は受任せず、これらの説明(彼は先刻そのようなことは承知だったと思うが)をするだけで帰宅した。
しかし、今考えると、この人の場合、以前の記事に書いた窃盗犯とは違い(この窃盗犯の場合は100%物理的に不可能な弁明をしていた)、一応可能性のある弁明だったわけだ。
この人の弁護を引き受けた弁護士は、どのような弁護活動をしたのだろうか、またどのような弁護をすべきだったのか、などと今ごろになって考え込んでしまった。
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青少年の方、好奇心で覚せい剤に手を出すと大変なことになりますよ!
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